いつか考えをまとめたいと思って後回しになっていたのだが、年末年始少し時間ができたこともあり、俗にいう「派遣労働」の問題について考えてみたい。
この問題は複雑だ。ゆえに、明確な解決案はでない。「誰が悪い」というのも決められない。ただ、その複雑さゆえに、我々は問題の本質から「目を背けさせられている」のではないか。
これには、経営者と派遣労働者だけではなく、正規雇用といわれる労働者、政府、ほとんどすべての国民がかかわっている。
なので、単純に「企業が派遣をクビにするのはひどい」なんてことは言えなくて、我々はそれぞれ、自分たちの立場と意見を明確に持っておく必要がある。
まず「派遣」と「正社員」のメリットだけを非常に簡単に対にすると、
手厚い保護が受けられ、企業が存続し続け、自分が望みさえすればほぼ終身雇用が可能
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人間関係などのしがらみに捉われることなく、手に職をつければ自由にさまざまな場所で労働を行い、報酬を受け取ることが可能
といったところだろうか。まるで賃貸と分譲みたいになってきたが。
とにかくそんな感じで、今まではそれぞれのライフスタイルに合わせ、なんとなくうまく回っていたようにも思えた。
しかし、事態が急転したのはやはり、小泉・竹中の両名が「構造改革」を掲げて経団連と仲良く手を組み、派遣労働者を製造業にも従事できるよう法律を改正してからだ。
これによって派遣労働者は急増した。ちなみに、派遣労働者の労災は9倍にもなったそうだ。
ただそれによって、日本企業が力を取り戻したのも事実だった。
グラフを見ていただければ分かるが、企業の現金保有を示す内部留保は年々上がり、正社員と平均賃金は反比例して下がっている。
グッドウィルやフルキャストなどといった、古くから存在した人材派遣会社も急激に業績を伸ばした。
金融危機なんかが起きなければ、日本経済はこのまま、ゆるいながらも成長を続けるはずだった。
では、やはり「企業はお金をいっぱい持っているくせに、派遣を切っている。おまけに正社員の賃金まで下げている。ふざけんな!」となるだろうか。
少なくとも僕はNoだと思う。
最初に言ったように、この問題はあらゆる立場から考えなくてはならない。
そこで経営者の立場で考えてみると、彼らはあくまで法律にのっとった方法でこのバブル後の苦難を乗り越えてきたわけであって、その法律を制定したのが当時国民に熱狂的に支持されていた首相であったことも考えると、国民が選択した結果と言えるからだ。
だから「企業が悪いんだ説」を唱える人は、「企業も儲かって、正社員の賃金も上がって、派遣も解雇されない」代替案を提示しなければならない。
構造改革をする。それで日本の景気は良くなる。「痛み」は伴うかもしれないけれど。
確かに良くなった。国民は喜んだ。でも、政治家も経営者も分かっていた。誰かがそのツケを払わなければいけないと。
それが、派遣労働者だった。
前述のようなメリットがあった派遣も、今となってはただの「安く使いまわせる工数穴埋めの数字」と化し、その数も全労働者の1/3近くにまでなった。
ここに「働き続ける労働者層」と「それを管理する層」という、明確で前時代的な階層社会ができ(かけ)てしまったのだ。
ここで、一番ワリを食っている(と考えられる)「正社員として安定した雇用が欲しかったが、どうしても派遣にしか職がなかった」人を満たすにはどうしたらいいかを考えよう。
日本の正社員は、特にアメリカなどと比べると過剰なほど保護されている。最近はリストラも他人事ではなくなってきたとはいえ、基本的に一度雇用したらよほどのことでもない限り解雇されない。大幅な減給や降格も珍しい。まだまだ、企業は自分や家族を守ってくれる存在であると考えている人は多い。
そしてここが大きな問題なのだが、そんな人たちの数割が、自分の生産性と比べて明らかに過多な報酬をもらっている。
もちろんすべての仕事がお金に換算できるわけではないが、年功序列、定時昇給の仕組みが「ただ長く会社にいただけ」の人がそれなりに給料をもらい続けられる構造を作ってしまった。
そして当然、彼らはその既得権にしがみつく。彼らは言う。「今まで頑張ってきたじゃないですか」と。派遣社員の未来より、自分の過去を見てくれと。
派遣労働者は、そういった人たちに搾取されているということもできる。
彼らの雇用の安定のために身を粉にし、日給9,000円で自動車工場で汗を流しているのかもしれないのだ。
ここでひとつの案として
「正社員でもクビにしやすくする。現在の派遣も正社員も同じスタートラインで、真の実力主義社会を目指す(=それで落ちこぼれたやつは仕方なし)」というのが出てくる。
ちなみにこれは、竹中平蔵の現在の考え方だ。
そして、それと対になる考え方として
「今のまま。派遣だろうが契約だろうが、運がない人はそうやって底辺で働いていればよし」というのがあるのではないだろうか。
以前、堀江貴文氏が山崎元氏の主張である「ベーシックインカム」についてブログで言及していたが、これも考え方の一つだろう。個人的には、実質生活保護と変わらなくなるのではないかと思うが。
まとめると、
「誰もが幸せになれる、超ミラクルな方法を考えつくこと」
「全員が同等の、もっと激しい競争社会を目指す」
「今のままでいいじゃんよぉ」
となった。
僕はまだどれが正しいと主張できない。それだけの知識と確信が伴っていない。
ただ、派遣労働者であるかどうかを問わず、現状に不満や不安を持っているとしたら、ではどうすればいいのか、自分のスタンスとしてもっておくべきだ。その上で考えたり発言するべきだと思う。
個人的な意見になるが、戦後の日本を強烈に立て直したのは、大正から昭和初期に生まれた人たちだ。
しかしその次の世代の人たちは、もちろん意図していたなんて思わないが、結果的にそれを食いつぶし、莫大な借金を残し、次代の若者たちにとんでもない負の遺産を残してしまった。この遺産は、それはそれは本当にとんでもないよ。
僕は、100年後の日本は機能しなくなっているんじゃないか、もしかしたらなくなってるんじゃないかとたまに本気で怖くなることがある。
そして現在派遣労働者として働いている、特に若い人たちに言いたいのは、前述のような狡猾な大人たちに目を眩まされている可能性があることを認識すべきだということ。
変えたいと思うなら、何らかのアクションを起こさなければダメだ。誰かが考えてくれるなんて甘い。人間、楽な境遇にいると、何かを変えたいなんてこれっぽっちも思わないことを忘れてはいけない。
たとえばそういった主張をする政治家を見つけ出して応援をするとか、実際に投票をするとか。
ただ、僕も見つけてみようと思ったのだがなかなかいない。それはそうだ。全体の2/3である多数派を敵に回しては選挙に勝てない。
でも、それでも問題意識をもち続けることだ。そうしないと、また政治家やマスコミに目を眩まされ、企業の小手先の対応に満足する、ということを繰り返してしまうから。
そして誰も「企業は派遣を雇ってやれよ」なんて気楽に言ってはならない。それでは社会は絶対に良くならない。
ずいぶん長いエントリーになってしまった。。
もし最後までお読みいただいた方がいらっしゃれば、ありがとうございました。この問題は難しいので、またいつか書くかもしれません。
国も政治家も企業も国民も全て悪いと言えるが、これだけはハッキリしている。「理論」をいくら並べ立てた所で 誰も助からない。ただ「死んで行く人達」がいる。見殺しにするか、助けるか、それだけです。