イチロー、松井秀喜、ダルビッシュなどの名だたるスター選手でも、誰もがそのすごさを認める存在がいる。それが工藤公康だ。
普段はキラ星のごとき選手ばかりが注目されるため目立たないが、プロ野球選手全体の平均実働年数は、わずか7,8年だという。その中で今年でなんと28年目を迎えるというこの投手。しかも常に第一線である。
近代まれに見るこの「長寿投手」が語る内容は、確かに金言が多くちりばめられていた。
工藤は、入団一年目でアメリカのマイナーリーグへの留学を経験する。そこで見た選手たちのハングリーさに、本当のプロの心構えを学んだという。彼らの待遇はメジャーの選手とは天と地ほどの差があり、それこそ毎日土を食らうような生活をしていたのだ。
自分の甘さを感じた彼はそれ以降、ハングリー精神を持ち続けることを忘れなかったという。
そこで「彼らは彼ら、オレはオレ」と考えてしまうのは本当のプロではない。そして、そんな考えを持った選手は、やはり早く現役を退くことになったそうだ。
序盤に続く彼の言葉は、一般のサラリーマンなどにも当てはまることが多い。
たとえば「オレはやればできる、と自分をごまかしていないか?」
彼曰く、素質を持っている人間ほどそういった状況に陥りやすいという。実際に「やればできる」わけだから。しかしそれでも、その「勘違い」に少しでも早く気づいたものが一流になれるという。
人によっては、球団からクビにされてもなお「こんなはずじゃない」と考えるそうだ。
プロ野球選手は、比較的甘やかされると彼は指摘する。高校出の選手が何千万という契約金をもらい、だからこそ球団幹部に大事に扱われる。
しかし社会は、自分がほかの先輩たちすべてを出し抜けるほど、絶対に甘くない。妙な勘違いとプライドは身を滅ぼすだけだ。
このような言葉は確かに言い古されているかもしれないが、現役28年という彼の歴史が、とてつもない重みを加えて迫ってくる。
その他にも、全盛期の西武時代の選手は肉離れをしても休まなかったとか、同僚と仲がよくなりすぎることは、時にマイナスになるのでわざと距離をおくだとか、彼なりの人生哲学がちりばめられていた。
正直、この年代の人たちにありがちな「根性論」が強いきらいもあり、後半部分は前半とほぼ同じような内容だったりするが、それでも何度も読み返す価値のある、名著だった。
「工藤公康に学ぶ本物のプロフェッショナル [読書]現役力 工藤公康」への1件のフィードバック