ご存知「UNIQLO」の運営会社であるファースト・リテイリングの社長、柳内氏の自伝的著書。
全編本人が書かれたようで、淡々とした語り口の中にも興味深い事実が多くある。
主に「経営哲学」について書かれており、経営者およびそれを志す人にとっては、業種などに関係なくひとつの考え方として非常に参考になるのではないだろうか。
描写は彼の幼少期から、先代の「メンズショップ小郡商事」を若くして引き継いでいくところからはじまる。
その先代も土建などで地元ではかなりの名士だったらしく、遺産も27億円ほどあったという。
このまま素直に父親の店と事業を承継していけば、柳井氏自身の生活もそれなりの(例えば一般的なサラリーマンよりはよっぽどよい)生活が待っていたのだろうが、あえて勝負に出たのがすごいところなのだろう。実際、柳井氏は2006年の世界長者番付で78位(推定資産4200億円)にランクインされている。
巻末にもまとめて書かれている、柳井氏自身が考案したというファースト社の「経営理念」が随所にちりばめられているが、これは特にベンチャー企業にとっては非常に大事な要素ではないだろうか。
確かに使い古された当たり前のことだらけともいえるが、それを本当に実行することの難しさが、社会人であればよく分かると思う。
特に興味深かったのは「本当に優秀な人は10人中2人程度。あとの人は必然的にそれに従う立場になる。たとえ優秀な人を10人集めたところで、結局そうなってしまう」という点。
これは実際会社勤めをしている人には耳が痛いというか、芯を突いているなぁと感じるのではないだろうか。
でもそれでよしとする、そこから組織をどうまとめていくのかを、柳井氏なりの視点と考え方からうまくまとめられている。
確かに、同じような内容の記述が複数回でてきたり、書物として完成度がすごく高いというわけではないが、正に「生きた参考書」としての価値があると思う。
本のタイトルにもなっている「一勝九敗」だが、経営も仕事も負けて当然、大きく負けさえしなければいい、という持論から来ている。
実際、これが書かれた2003年には柳井氏はファースト社の社長職を退いていたのだが、業績の悪化から2005年に再度就任する。
そして近年では、世界のCMコンテストでNo.1になった「UNIQLOCK」や、大ヒット商品となった「ヒート・テック」などを世に送り出しているのだから、この辺りの手腕はやはりさすがといったところ。
ちょっと古い本ながら、経営者のみならず社会人であれば一読して損はないと思う。