[映画]『ノー・カントリー』 ジョエル・コーエン イーサン・コーエン監督

評点:65点(100点満点中)

2007年度のアカデミー作品賞受賞作。

劇中、音楽も流れない、笑顔も見られない、とにかく陰鬱な雰囲気漂うものだった。決して嫌いじゃないが。
あらすじは、麻薬の取引がらみのマフィアの大金を、たまたま通りかかった男が横取りしてしまい、それを追いかける冷徹無比な殺し屋から逃げ続ける、というもの。

この手のストーリーであれば、この男がなぜ大金を奪わなければいけなかったのか、などが裏付けされそうなものだ。たとえば、病気の子供がいるとか。
しかし、この作品ではその点が一切描写されない。ただ単に、大金が欲しくてマフィアの金を奪った田舎のカウボーイとそれを追う殺し屋、という構図なのだ。

正直言って、それが中盤の退屈さを生んでしまった。
確かに、緊迫感は十分。しかし、何の意味もなく、ただ逃げ惑う男とそれを追う男の対決を見ているだけというのは結構つらい。
終盤の展開も、見方によっては非常にあっけない。「今までの何だったの?」というくらいだ。

ただ、観終わってからの余韻度合いは半端じゃない。
大抵の映画は、観終わって数日もすればまぁ忘れてしまう。「面白かったな」という程度の感覚しか残らないものだ。

しかし、この『ノーカントリー』は非常にあとを引いた。『マルホランド・ドライブ』と後味の種類は違うものの、同じ程度の後味の粘り方だ。

おそらくこの作品は、Eaglesの「Hotel California」の歌詞のように、「アメリカで生まれ育つ」というバックボーンがあれば、よりリアルさを伴ってくるのだろう。
残念ながら私はそうではないので、この映画の真の面白さや意味を理解できていないのだと思う。しかしそれでも、アメリカ人やアメリカ社会が抱えている闇の部分は感じることができた。

アカデミーはアメリカ映画の祭典であるが、事実上世界最高の映画賞である。それゆえ、特に近年ではどこの国のどんな文化の人が観ても面白いものが優遇されてきたように思う。
その潮流の中、このような映画が作品賞をとったことは非常に意義があったのではないかと思われる。

民族問題に接する際、自分が考えること

昨日のエントリに多くのコメントをいただき、その多くが大変有用なものだったので、コメントへの返信ではなく再度エントリにしてその代替とさせていただきます。

皆さん、多くのご意見をいただきありがとうございました。
色々な立場の方から多面的なご意見をいただき、自分ひとりでは持ちきれない物の見方を学べました。ありがとうございます。

私が前エントリで主題としたかったのは、どんなに相手に罵倒されたとしても、それにいつも罵倒で返していたら結局自分も同じレベルということになるし、いつまでたっても終わらないのでは、ということでした。
例えば相手が何か自分たちにとって不利益なことを発言や行為をしたとして「○○はバカだから」となると、向こうも負けじと「何だこの野郎」となるともう何か意味がないんじゃないかなと。

と言いつつmocchiさんがおっしゃるように、私自身が他者を非難するような論調で書いており、それは本当に周りが見えていないというか、大変反省しております。

韓国や中国の、マスコミ以外の一般の人でも「反日」が多いというのは間違いないですが、例えばその原因が学校教育で「反日」を叩き込んでることだったり、扇動的なマスコミだったとしたら、やはりそんな「日本の情報を故意に歪曲した」教育なり報道を施している側に問題があるはずで、(大げさに言えば)戦時中の日本で「天皇バンザイ」と教えられてきた人たちを責められないのと同じように、その教育する側なり、報道する側に問題を見つけるべきかな、と思います。
日本が中国に対して多額のODA援助しているのを、中国の一般人がほとんど知らないっていうのも、政府が意図的に教えないからですよね。

もし自分が正しいのに向こうが矢のように罵倒してくるのなら、じゃあ何なんだ、何が原因でこんなこと言われなきゃならないんだ、と考えたり相手に伝える方が結果的にお互いにとって良いんじゃないかと思うんですよね。

それに、rennon_09さんがご指摘くださったように、そこには政治勢力が大きく絡んで、自分たちの利益のために大衆を少なからず扇動している部分があるはずなんで、そこにまんまと乗せられるのもかっこ悪いかなと。

その上で「××人はこれだから…」とか「民族問題は根が深くて解決しないよね」で終わってしまうのは、思考の停止かなと思うんですよね。

暴力団に朝鮮系が多いことも、パチンコ屋が利得をむさぼっていることも、私もものすごく嫌だけれど、「これだから朝鮮系は嫌いだ。日本から出て行け!」と言っても出て行かないし、じゃあ何でそうなってしまったのか、今が嫌ならどうすればいいのか、まだ私には解が見つからないけど、それを考えて行動していくことしか解決にならないんじゃないのかな、と思っています。それが「パチンコには絶対行かない」とかそういうことだったとしても。

日韓や日中、それに世界中には数え切れないほどの民族紛争があって、それがすべて解決するものでもないとは思います。何百年、何千年とできなかったわけですし。根本的に、絶対に合わない人って(結構たくさん)いますからね。
個人的な意見ですが、やはりどうしても価値観が異なって付き合えない人というのはいると思います。例えが極端ですが、訳の分からない猟奇的殺人を犯すような人と普通に仲良くはなれないでしょう。しかしひとつの国なり民族を括って「全部そういう人間だ」ってことはないと思うんですよね。
そういう人が憎しみをもってぶつかってきたら、マザーテレサのように全部包み込むのはそりゃ無理だけど、とりあえずスルーするとか。

ネットでいろんなことが便利になって、それを人を罵倒したり憎しみを増幅させるために使うっていうのも寂しいんじゃないかと。

それと、ここからは個人的な願望ですが、お互いを「個人」として理解するには、インターネットというのはとても有用だし、国籍とか関係なくこれだけ簡単に話ができるようになったのだから、もしかしたら、少しずつでも前に進めるのかもしれないという希望は持ちたいですね。

結局言ってることは「憎しみは負の連鎖にしかならない」っていう、ただの理想論なんですが。

皆さんのご意見は非常に参考になりました。最後にもう一度御礼を申し上げます。

WBC 韓国人を非難し、自己を正当化するのはそろそろやめるべき

まさかの三日連続WBCネタ。

日本全国を感動と興奮に包んだWBC。
今日街を歩いていると、本当にそこいら中に余韻が残っているような気がするから不思議だ。
みんな何だか嬉しそうに見える。

しかし、ネットの世界に入ると途端にこの清々しい余韻が壊れる。

【WBC】「“ダーティーサムライ”」と韓国紙 「イチローは高慢」
痛いニュース(ノ∀`):【WBC】韓国「日本は運がいいだけ。たった4ヵ国に勝っただけで世界一」

これに対するネット民の反応は相変わらずだ。
「さすが韓国w 民度が低いwww」
「負け犬の遠吠えウザイ」
「自分たちのことを棚に上げて、他人だけ批判かよ」

そう声高に叫ぶ人は、これが韓国の一部のマスコミの論調だとは考えず、本当に韓国国民、および朝鮮系の人々の総意だと思っているのだろうか。もしそうだとしたら、本当に心配になる。

自国のマスコミに対しては「マスゴミ」などと称してその真偽を疑うのに、何故他国のマスコミの言うことはすべて鵜呑みにするのだろうか。刺激的なタイトルと内容で部数やアクセスを稼ごうとするのは、万国共通だとすぐ気づきそうなものなのに。

知り合いの韓国人とWBCの話をしたが、誰一人言い訳などしない。悔しがってはいるものの、日本を称え、おめでとうと素直に賞賛する。確かに、そもそも日本の文化に憧れて来日している人たちだからかもしれないが。

しかしもし日本が負けて、日本のマスコミが「しかし、トーナメントに問題があったのは事実」などと書いた場合、ネット民たちは「恥ずかしいから負け惜しみすんな!」と激烈に非難するだろうか。「まぁそうかもね」くらいに流すんじゃないだろうか。

韓国でも同じなのではないか。少なくとも、そんな疑問を持つことすらないのだろうか。

はっきり言って、彼らは「また言い訳してるよ」と言いたいがために、否定的な報道をする韓国メディアのソースを必死でかき集め、「出たwww これだから韓国はwww」と、はじめる。
これは心理的には、他人を卑下することで優越感を得、自己を肯定する行為だ。

勝ったのは日本選手であって(確かに応援はしていただろうが)自分たちではないにも関わらず、まるで自分たちの方が韓国の人々よりも人間的に優れているかのように錯覚し、自己を正当化しようとするのだ。
いわば、WBCでの勝利はひとつの口実に過ぎず、自分たちより劣った人間を探すことで安心しようする自己防衛に過ぎない。
付け加えれば、それは自己に自信のない人間が陥りやすい。

しかしそれは、野球という決まったルール上で白黒つけ、あれだけかっこよかった日本・韓国の両選手と比べて何とちっぽけだろうか。

そもそも、韓国の人が日本を蔑むような発言をしたとして、それに対し「これだから韓国人は」と人種を一括りにして返せば、良識ある韓国人から「また日本人は…」と思われるだろう。それは無限ループだろうと。
日本を悪く言う一部の韓国人を否定するのならば、「すべての日本人が韓国人を悪く言う」と勘違いしている人たちへの責任を取って欲しいものだ。

ある一定数以上の大勢の韓国人に、その総意の元に直接被害を被った経験がある人が言うのなら分かる。
しかし、そんな人が一体どのくらいいるだろう。

そして、この傾向はネット住民に特に強い。
街中のマクドナルドで「WBCすごかったねぇー」と話す人はいても、「韓国また言い訳してるよww」と罵っている人は見かけない。

ネット民は「情報強者」であることを自認するあまりに、対象の欠点や自分たちに有利な情報で理論武装し、優位に立とうとする傾向がある。
それ自体は悪いことではないが、今自分が行っている行為が恥ずべきことではないかどうか、たまには自問自答すべきだ。
確かに言論の自由はあるけど、あまりに品性のないことを繰り返していると、それこそ日本人の民度を疑われてしまう。

まぁこれは、日本と韓国(朝鮮)という、根がとてつもなく深い問題が関係しているで難しいのだけど。

WBC決勝・10回表 なぜ韓国はイチローを敬遠しなかったのか

連日のWBCネタ。

いやぁ、日本勝ちましたねぇ!
期待されながら結果を残す。選手、監督選考、色々ゴタゴタした中で連覇を達成する。本当にすばらしい!!

そして、調子が出なかった中で最後の最後で決勝打を放ったイチロー。
スーパースターとはこのことを言うんだろう。本当にすごい。

今日ばかりは選手の皆さんは美酒に酔っていただきたい。

しかし、しかし… 水をさすわけでは決してないのだけど…

試合を見ていなかったため、スポーツナビの「テキスト速報」での確認になってしまうが、決勝打を放った時のイチローの打席を振り返ってみたい。

まず、打席に立った時点では、二死一・三塁。
2球目に岩村が盗塁を決め、二死二・三塁となる。この時点でカウントは1・1。

私は野球の専門家でも何でもないが、セオリーどおりに行けばここはどう考えても敬遠じゃないんだろうか。

同点で延長。一塁が空いている状況で、バッターは今日3安打している、あの「イチロー」だ。

明らかに投手力で上回る日本に対し、この状況で1点も大量得点も同じようなもの。
確かに次の中島も怖いが、どう考えても、外野に抜けない限りアウトにできる、満塁策が定石だったのではないだろうか。

少なくとも真っ向勝負ではなく、ボールになっても構わないきわどいコースで攻めるべきだったはずだ。あれだけ粘られてもいるのだから。
事実、この後まったく同じ状況で打順が回ってきたこの日1安打の青木に対しては、迷うことなく敬遠を選んでいる。

韓国にしてみれば、このイチローとの対戦が命取りになった。
日米通算3,000本近いヒットを放ち、メジャーリーグで数々の記録を塗り替え、現在世界最高と言われるバッターに勝負を挑んだばかりに。

ここからは私の勝手な妄想だが、韓国国民にとって「イチローを敬遠する」という行為は、とても許されないことだったのではないだろうか。

イチローが韓国を挑発し続けてきたことは有名だ。それは巧妙な心理作戦だと私は思うけど。
それに対し、韓国は過剰なまでに反応してきた。現地でも、韓国応援団のイチローへのブーイングはすさまじかったという。

これもひどい妄想なのだが、先日の順位決定戦は、韓国はある意味で手を抜いたんじゃないかと思っている。
それまで1つしかなかったエラーが、その試合だけで確か3、4つあった。

エラーした選手もヘラヘラ笑っているし、監督の采配も「絶対に勝つ」という気持ちは見られなかった(それは日本も同じだったけど)。
わざと負けたとは言わないが、準決勝ではアメリカよりベネズエラがいい、と考えていなかったことはないと思う。

そしてまんまとベネズエラに打ち勝ち決勝に進んだのを見たとき、私は韓国の狡猾さを見たような気がした。
「嫌日の韓国が日本に負けて悔しくないはずがない」という人がいるが、私は韓国チームもそんなにバカではないと思う。

順位決定戦での負けは甘んじて受けても、決勝で勝利し優勝することこそが、国民も納得する本当の勝利だと分かっていたはずだ。

しかし、それでもイチローを敬遠することはできなかった。
最後の最後で、変なプライドというか、憎しみというか、妙なものが邪魔して、愚かにも敗北してしまったのではないだろうか。
もし逆だったら、韓国にイチローがいたら、日本人は皆「そこは敬遠だろ!」と怒っていたのではないか。

もしかしたら、選手や監督は敬遠したかったのかもしれないな。
でも、帰って何言われるか分からないからやれなかったのかな…

このあたりは、野球通の知り合いや、夜のニュースの解説や、ヤフー知恵袋で釣り質問でもして聞いてみることにしよう。

WBCの敗戦を、アメリカメディアはどう伝えているか

WBC盛り上がってますねぇ。

確かにサッカーに比べたら参加国も少ないものの、研ぎ澄まされた一流選手たちの「ガチンコ」試合を見るのは、やはり楽しいものです。

そして今日は遂に、Baseballの母国アメリカにも勝ってしまいました。
日本のマスコミが浮き足立つのは当然として、果たしてアメリカのマスコミは、今回のことをどのように報道しているのでしょうか。

とりあえず、アメリカ三大ネットワークのスポーツニュースを見てみました。
 ※2009年3月23日 PM6~7:00(日本時間)近辺の情報を元にしています。

すると、ABCは何とWBC関連のニュースがナシ!(あったのは、一次リーグでオランダがドミニカを破ったというニュースのみ…)

「盛り上がっているのは日本人と韓国人だけ」と揶揄されているWBCですが、本当にそうだったのか。。

不安を抱えながら、CBSのニュースを見てみると、少し記事がありました。

要約すると、
努力しない選手と、決断力のない指揮官が率いるアメリカチームが、すべての点ではるかに優れていた日本に負けた。アメリカは、もうこの大会で勝つことはないだろう。次の機会には、マイナーリーグの選手を出すべきだ。少なくとも、彼らの方が少しは努力するだろうから
という、何とも悲観的なものでした。結構言い訳三昧なのかと思いきや、完敗を認めています。

そして、最も詳細な記事を載せていたのがCNN

試合の局面ごとに、戦術的なかなり細かい指摘(左バッターが多かった日本チームに対し、アメリカの先発オズワルドが打ち込まれたにもかかわらず、ブルペンでは誰も投球練習をしていなかった等など…)もあるのですが、とりあえず全体的な論調として、

・アメリカチームが試合を支配した時間帯は一度もなかった
・選手だけではなく、監督・コーチもひどかった。やる気が感じられなかった。
・このチームに、本当に1億6,000万ドルの価値があるのか。日本チームの年俸より下げなくてはいけないのではないか。
・アメリカは車に続き、野球までアジアにもっていかれた。

という感じで、かなり辛らつな内容になっていました。

準決勝の前日に、来期からの契約条項にチャリティ活動を入れていいかどうか、で選手側とオーナー側でなにやらもめていたんだそうで、そういった不調和も敗因の一つとして挙げられています。

まぁとりあえず向こうも認めていることだし、今日の勝利は単純に喜んで良いんじゃないでしょうか。そして、明日の韓国戦にも勝って、是非V2を果たしてもらいたいものですね。