遅ればせながら、竹中平蔵氏が出演した「久米宏のテレビってヤツは」を見た。
そしてその中で、彼はとんでもないデタラメを言っていた。
番組は出演者が竹中氏に質問する形式になっていた(「追求」にはまったくなっていなかったが)。
すべてがただの言い訳にしか聞こえなかったのだが、特に気になったのは以下の点。
Q.派遣労働者の待遇の問題について
A.「派遣」労働者は全体の2.6%でしかない。非正規雇用者は全体の1/3くらいだが、非正規と派遣を一緒にしてはいけない。
これは、典型的な論点のすり替えではないか。
派遣労働者問題でもっとも重要なのは、その数ではなく彼らが非常に弱い立場に追いやられていることだ。
同じ仕事をしても賃金は低い。保障もない。事情によりそれを望んで選んだ人は別として、今は「それしか選択肢がなかった」人がどんどん増えてきているという問題の返答になっていない。
そもそも、2.6%だからいいということでもないだろう。
もしその人たちの半分でも失業すれば、国の失業率が一気に1%以上も上がることになるというのに。
そして、驚いたのは次の点。
Q.2,000億円相当を、109億円でオリックスに一括譲渡した「かんぽの宿(日本郵政株式会社が運営している=税金で建設された)」問題について。オリックスの宮内義彦氏は、経済財政諮問会議の中心メンバーだったではないか。出来レースではないのか。
A.宮内義彦氏はメンバーではなかった。それはマスコミのでっちあげである。
Q.しかし、規制改革会議のメンバーであった。
A.規制会議と郵政民営化とは何の関係もない。
これはあまりにもひどい。
確かに宮内氏は経済財政諮問会議ではなく、規制会議の議長を務めていた。しかし、この二つは密接にかかわりあっていた。
以下に「平成15年度 第5回総合規制改革会議 議事概要」の議事録の一部を引用する。
<宮内議長から資料1について説明>
○その他
7月の第3回会議で、複数の委員から提案があり、その後当会議としての取組み方を検討していた「郵政三事業の民営化など」に関する取り扱いについては、金子大臣が小泉総理とご相談されていたところであるので、その内容について大臣からご説明を頂戴したい。
(金子大臣)本年夏以降、総合規制改革会議の委員の間では、郵政三事業の民営化などについて同会議で取り扱うべきとの議論があったと聞いている。一方、ご存知のとおり小泉総理からは、本件を経済財政諮問会議において集中的に取扱うこととし、そのとりまとめを竹中大臣にお願いしたいとの指示が公式にあった。
~中略~
<質疑応答等> (●質問・意見、→質問・意見に対する回答)
基本ルール・基盤整備WGの関連事項は資料には出てこないが、WGでの取組は引き続き進めていきたい。また、郵政三事業については、経済財政諮問会議で一元的に検討を行う事情は分かるが、当会議に民間からの要望が出されている事項である。要望を反映し、規制改革を聖域なく進める観点からは、その検討の過程において当会議が規制改革の観点からの自ら意見を有することは構わないし、その意見は経済財政諮問会議に宮内議長あるいは金子大臣を通じ伝えていくことが適切ではないか。
→基本ルール・基盤整備WGについては、ご指摘のとおりである。郵政事業については、当会議の答申としてまとめることについては、大臣のご説明にもある事情を踏まえて考えなければならないが、経済財政諮問会議に当会議の考え方を伝えることについては、ご指摘のとおりとしてはどうか。
この点も含め、アクションプランをはじめ今後の当会議としての重要事項の扱いについては、説明があった内容、あるいは質疑の中でご確認いただいたとおり、おおむねこの資料に添った形で決定するということでよろしいか。
(-異論なし-)
(宮内議長)ありがとうございました。年末の答申に向け、今後、特に主査の方には短期間のとりまとめでご苦労を頂くことになるが、どうぞよろしくお願いしたい。
小難しい言葉で書かれているが、
宮内氏:「郵政民営化どうなってんの? 経済財政諮問会議の奴らに言っとけよ」
大臣:「分かりました。伝えます」
とはっきり書いてある。
そもそも、郵政民営化はこの「規制改革会議」で審議されていたことで、後に「経済財政…」にバトンタッチされたはずだ。なぜかその間の議事録は作成されていないのだが。
そういった事実を踏まえて「メンバーではない」「規制会議と郵政民営化は関係ない」などとなぜ言えるのだろうか。
オリックスが一般入札で「かんぽの宿」を手に入れたのならそれは問題ではない。
実際には、内容が開示されないというきわめて不透明なものだったのだが。
そして、一括で譲渡したからこそ低価格で獲得できた、というのもウソではないだろう。
しかし、上記の竹中氏の発言はどうだろう。かぎりなく「クロ」に近いけどクロではない。#000000ではないけど#000001みたいなもんじゃないか。
彼が行ったことや、これから行おうとしていることが本当に間違っていたのかは、正直分からないと思う。
正しいのかもしれないし、違う方法があるのかもしれない。専門に研究している学者や、世界中の国の間にだって見解の違いがあるのだから、仕方のないことだ。
そして、仮にも竹中氏は国民が支持した小泉政権の中核だったわけで、その政策を今更責め立てるつもりは私はない。
しかし、自己を正当化するためにデタラメを言って国民をだまくらかすというのは、いくら政治家を引退したとはいえ、彼の立場上許されないことのはずだ。
そしてこの内容をただ垂れ流したTBSの罪も重い。TVというメディアの影響力は圧倒的だ。あの番組を見た人は「あぁ、そうだったのか。小泉・竹中バッシングは不当なものだったのだな」と思うことだろう。
でも違う。あれは明らかに詭弁だった。
番組の後半に、構造改革のためには現在の正社員の既得権を廃し、雇用の流動化を図ることが必要だ、と述べていた。
そう思うなら、それを説明すればよかったではないか。なぜいい加減なことを言って言い逃れをしようとするのか。
彼のことは好きでも嫌いでもないし、少なくともあの頃「何もしない」という選択肢はなかったわけで、例えば全然違うことをしても失敗していたかもしれないわけだ。
そういう意味では、少なくとも「行動した」ことは評価に値する、と思っていた。
しかしあのような発言をするようでは、とても信用ならぬ人物なのだろう。