「貯蓄から投資へ」と言われて久しく、私自身も投資は行っているのだが、中にはまるで博打のようにFXや株に安易に入ってくる人がいる。
そういった人たちが揃って口にするのが「B・N・F(ジェイコム男)」である。
160万円の元手を、わずか8年で200億円以上にしたという個人投資家で、未だに「証券会社の広告塔で実在しない」という説もあるほどのアイコン的な存在だ。
もしかしたら自分でも…… ちょっと近づくくらいは……
その気持ちは分からないでもない。私だって人の事は言えない。
実際にやってしまった人がいる以上、不可能とは言い切れないが、これがいかに現実離れした数字かを再検証したい。
■160万→200億がどれだけすごいか
「元本を一定期間複利運用したとき、将来いくらになるかを計算する」のに「終価係数」というものを使う。
現在の日本では、どんなによくても金利1%が限界だろう。それを元にすると……
8年後:1,732,571円
プラス:132,571円
である。
安全で利回りの高いと言われる、米国債の10年物でもよくて5%。これだと、
8年後:2,240,000円
プラス:640,000円
※米国債は単利運用とする
※税金は考慮しない
実際、160万円の元手で8年後に64万円増えたのであれば、これはもう最高だろう。
B・N・Fはこの3万倍の結果を残している。通常の3万倍だ。シャアでも3倍、界王拳でも20倍(だっけ?)なのに。
これが自分にできるか、冷静に考えたほうがよい。
■超人的な記憶力
彼は以前「600~700銘柄の値動きは頭に入っている」と発言したことがある。
重点的に監視しているのがその1/10程度だとしても、彼が重要視するという乖離率(25日線や5日線の離れ具合)もすべて克明に頭に刻まれているはずだ。
彼はPERなどは一切見ないと言われているが、ボリンジャーバンドや一目均衡表などの一般的な指標はおそらく考慮しているだろう。
当然、株価は毎日変わる。このすべてを記憶できる能力が、彼には備わっているということだ。
■強靭な精神力と集中力
特にデイトレやスイングトレードでは、リスクを冒して私財を投じ、損をすれば見切りをつけ、多少の含み益が出ても決済せずにじっと持ち堪える、ということができなければならない。
投資経験がある人には分かるだろうが、これには強靭な精神力が必要だ。彼のように額が大きくなればなおのことだろう。
「人間は得をする喜びより、損をする悲しみの方が強い」ため、ほとんどの個人投資家が、持株が下がれば「上がるまで待とう」と考え、少しでも上がれば「下がる前にすぐに売ってしまおう」となる。
その本能に打ち勝ち、絶妙のタイミングを判断しキーボードを叩く。
これは彼に限らないが、集中力を極限まで使うため、一日のトレードが終わった頃には椅子から立ち上がれなくなるほど疲労するという。
■深い経済知識
B・N・Fは、下手な経済学者よりもよほど深い洞察力を持っていると考えられる。
それを示すのがこれ。
これを読めば、「ジェイコム株で運良く儲けた」というイメージが全くの誤りであることも分かるだろう。
同じように、個人で90億円を稼いだ「cis」という投資家がいる。
それもそれでとてつもないのだが、その彼をしても「B・N・Fは神。とてもマネできない」と言う(cisのマネもできないが)。
200億円と言ったら、年俸4億の阪神・金本選手が50年かけて得られる収入であり、イチローでも10年かけてようやく届く額だ。
株なら…… と安易に思うかもしれないが、金額だけで言うなら、それこそプロ野球選手の何十倍もの努力を重ねねばダメだということだ。
とはいえ、投資自体を否定するものではない。
ギャンブルのようなイメージは捨て、運がよければB・N・Fのようになれるのではないかという妄想も捨て、きちんと勉強した上で参加すべきだということだ。
そうしないと、汗水流して稼いだお金をドブに捨てかねない。