全米オープンゴルフが終わった。
今年はルーカス・グローバーという、ゴルフ界では無名な選手がその栄冠を勝ち取った。
PGAツアーでわずか1勝という選手ながら、世界4大大会で優勝した彼のゴルフ人生は、この後大きく変わることだろう。
そして、今回もまた2位に甘んじた選手がいる。フィル・ミケルソンである。
タイガー・ウッズがあまりにも浮世離れしているために、ゴルフファン以外にはその名が知られていないものの、世界ランキングはそのタイガーに次ぐ2位。
すべてにおいて右打ちが有利とされるゴルフにおいて、右利きであるにもかかわらずあえて左打ちにしたという異色の天才ゴルファーだ。
ミケルソンと全米オープンといえば、思い出すのは2006年だ。
首位で最終ホールを迎えた彼は、ボギーでも優勝という位置につけていた。それまで何度も2位に甘んじていた彼が、ついにゴルファー最高の栄誉を掴まんとしていたのだ。
スプーンを使って当たり前、アイアンで打っても恥ずかしくないティーショットを、彼はドライバーでフルスイングした。
元々それほど精度が高くないミケルソンのドライバー。悪い予感は当たるもので、打球ははるか左、観客席の中に飛び込んでしまった。
2打目もレイアップ(刻んで打つ)すればいいものの、強引に2オンを狙ってミス。結局このホールをダブルボギーとし、優勝トロフィーはオギルビーの元へ渡った。
グリーン上でうなだれるミケルソン。その後、誰もが知りたがった疑問である、
「あの時、なぜドライバーで打ったのですか?」
というインタビュアーの質問に、彼はたった一言こう答えた。
「それが私のゴルフだからさ」
夫人の乳がんが発覚し、5月に無期限の活動停止を発表したミケルソン。
しかしその夫人に後押しされて出場した今大会で、ついに大会最多となる5度目の2位を記録した。
彼の生き方には賛否両論あると思う。プロとして「勝利のためにすべてを犠牲にしない」姿を批判する人もいる。
しかし「自分の人生にとって何が価値があるのか」という壁にぶち当たったとき、彼のような生き方を見ると勇気付けられるのは確かだ。
彼はこの後、再び夫人の看病のためにツアーを欠場する。
「試合は終わった。この後はもっと大事なことが待っている」という言葉を残して。