「高級時計ブランドといえば?」と聞いて、思い浮かべるのは何だろう。
おそらく、多くの人が「ロレックス」ではなかろうか。
しかし時計業界の間では、ロレックスは決して高級時計ではなく、むしろ「大衆向け時計」である。
本当の「高級時計」とは、パテック・フィリップ、オーデマ・ピゲなど、スイスの老舗ブランドであり、これらの前では、はっきり言ってロレックスなどおもちゃのようなものだ。
パテックやピゲは、日本では「雲上ブランド」とも呼ばれ、普通の人にはなかなか手が届かない。
安くても200万円くらいから、高いものは上限がない(それこそ10億円以上とか)が、中央値で500~700万円程度だろうか。
ロレックスは50万円出せばそこそこのものが手に入る。
なのになぜ我々は、「高級時計といえばロレックス」と思うのか。
その理由は、ロレックスの神がかり的なマーケティング戦略抜きには語れない。
まずひとつは「貴族階級への反骨」というメッセージを明確に打ち出した点。
欧州では未だに階級意識が強く根付いており、その階級間を行き来することはとてもむずかしい。ほぼ不可能だ。
パテック・フィリップやコンスタンタンの時計は確かに素晴らしいかもしれない。しかし腕時計に1,000万円を費やすなど、どう考えても常軌を逸している。溢れるほどに金を持っている人が、さらなる道楽のために購入するのが彼らの時計である。
そんな中、数で他を圧倒する「労働者階級」を代表する時計として、ロレックスはそこに存在を示した。20世紀の急激な経済成長に乗ったことも大きかっただろう。
また、価格帯の妙もある。
ロレックスの時計は、売れ筋で50~100万円くらいがボリュームゾーンだろう。
「ちょっと高いけど、がんばればなんとか買える」という価格帯に、相応の高級感と機能性をもってブランド展開をしたロレックスは、「持っているだけでステータスとなる」という、ブランドとしては最高のイメージ構築に成功したといえる。
ちなみに、ロレックスにしろパテックにしろ、時計の原価はかなり低い。一説では、製造元の利益率で40%を超えるのではという話もある。
時計の値段のほとんどは、そのブランドの名前なのだ。
もちろん、性能も素晴らしい。
1,000万円のパテック・フィリップの懐中時計を水に落としたら一度で故障するだろうが、ロレックスのサブマリーナは海中深く潜ることができる(ただ、機能と価格で考えると日本のセイコーやシチズンが最強だと思う)。
こうしてロレックスは、時計にあまり詳しくない人たちに、あたかも「世界一高級な時計ブランドはロレックスである」というイメージを刷り込むことに成功した。こういった例は他にあまりない稀有なものだ。