[映画]『マンマ・ミーア!』 フィリダ・ロイド監督

評点:60点(100点満点中)

世界中で大ヒットを記録したという舞台の映画化。
ギリシャの小島を舞台にしたということだが、その景色の美しさには目を見張るものがあった。
一度でいいからこんなところで暮らしてみたい、と思ってしまう。

しかし現実はそう簡単なものではないと、主演のメリル・ストリープはうまく表現していたと思う。

あらすじは、メリル・ストリープ扮するドナの娘が、自分の結婚式にまだ見ぬ父親に会いたい一心で、その候補である男性三人に同時に招待状を送ってしまうことから始まる騒動。

カテゴリとしてはミュージカル映画になるのだろうが、見終わった感想はラブコメディという感じだった。
確かにABBAの音楽に乗せた歌とダンスは軽快で見ていて楽しいが、例えば「RENT」のような一流のミュージカル・アクターが集まっているわけではないので、それを期待して観にいくのはオススメできない。

小島のホテルを一人で切り盛りし、娘を一人前まで育て上げた女性のたくましさを、メリル・ストリープは髄所にたくみに織り交ぜている。
美しい風景の中にも、人生の苦悩と苦労、過ぎ去った過去の記憶とこれから、そんなものを言葉に出さずに表現しているのはさすがだと思った。

娘を送り出す後ろ姿を見送るシーンなどは、わずか数秒でさまざまなことを想起させるし、やはりこの人はシリアス・ドラマでこそ映えるのかな、という気もしてしまった。

ただ、前述のように全編を通じて歌とダンスは、娘役のアマンダ・セイフライド(彼女は非常にうまい。吹き替えかどうかは分からないが)以外は正直イマイチ。特にピアース・ブロスナンは彼の良さを完全に消されてしまっていて、かわいそうにも思えた。
また物語の終盤以降の流れは、スピーディすぎてちょっとついていけなかった。「なんでこうなるの?」と、つい頭で考えてしまうが、それはこの映画ではタブーなのかもしれない。

とにかく、ストーリ性などを考えず「ちょっと落ち込んでるから元気になりたいな」とか、大学生のカップルがはじめて観にいく映画とかには最高にぴったりだ(皮肉的な意味はまったくない)。
特に女性で、この手の映画が嫌いという人はまずいないんじゃないだろうか。

そんな感想です。

[映画]『ミスト』 フランク・ダラボン監督

評点:10点(100点満点中)

DVDで観たものを「映画評」としていいものかどうか、しかも少し前の作品なのでこれまた微妙なのだが、せっかく観たのでレビューを書こうと思う。

しかし、レビュー第一回目がこの作品になってしまったのは非常に残念だ。
はっきり言って、観る価値はない。

あらすじは、ある片田舎に突然原因不明の「霧(ミスト)」が発生。
そしてその霧の中には何やら得体の知れない凶暴な生物がいることが分かり、たまたまスーパーに居合わせた住民はパニックに陥る、というもの。

劇中、ほとんどがスーパーマーケットの中で展開するにも関わらず、グイグイと引き込まれる。このあたりは同じくキング原作の『ショーシャンクの空に』『グリーンマイル』などを手がけてきたフランク・ダラボン監督の手腕だ。メジャー映画の作り方を本当に良く知っているなぁと感心する。

そして、恐怖におびえる群集心理も非常によく描かれている。
当初は居合わせたみんなで協力し合うものの、あまりの恐怖に、皆が一人の狂信的な女性に煽動されていく姿は、やや大げさではあるが(こんな状況になったらこうなっちゃうかもな…)とも思わされた。

もしこの映画が群集心理を描きたかったのなら、現実にはありえないあんな昆虫みたいな生物ではなく、もっとリアルなものの方がよかったのではないか、という違和感は覚えたが、それでもかなり引き込まれて観続けた。

この映画のコピーは「映画史上かつてない、震撼のラスト15分」だそうだが、そりゃそうだ。
こんなひどいラストシーンは観たことがない。

物語というのは、主人公の気持ちがすべて観客に開示されていないといけないと思う。サスペンスで、最後の最後に犯人は実は主人公でした、と言われたらどうしようもない。主人公は観客にウソをついてはいけないと思うのだ。

逆に、最後に死んだ人がすべて生き返りました、という話でもそれが許されるのなら全然OKだし、とにかく、作品中に「絶対犯してはならない価値観」がひとつなくては、物語の軸がぶれぶれになる。

一箇所、そのラストシーンにつながる伏線があるのだが、だからといって「なるほどね」とは思わない。思うわけがない。

スティーブン・キング原作と言えば、世紀の「駄ラストシーン」の『It』(正確にはTVドラマ)という作品があるが、これを観た後ではまだ『It』の方がましだと思える。

双方に共通しているのは、ラストシーンまでは非常に面白いのだ。息をもつかせぬ展開で観客を引っ張り続け、手に汗握って画面から目が離せない。

しかし、最後の最後でドッチラケなのだ。
何なんだと。今までの2時間(『It』は4時間くらいある)を返せと。

『It』の方は単純にくだらないラストだったのだが、こちらの方は基本のセオリーを無視したという意味でもっと罪が重いと思う。
アメリカという国で、このようなラストを選んだチャレンジ精神は認めなくもないが、本国での興行がまったく不振だったというのも分かる。

感情的な面だけではなく、技術的な面でも私はこの映画を肯定できない。

点数の10点は、マーシャ・ゲイ・ハーデンの助演がすばらしかったのと、子役の演技のみ。